大阪で伝統構法の家づくり!・・・石場建て/木組み/土壁 ~今さらマイホーム新築

五十代も後半、自宅を再建新築。 今さら住宅ローン!建売りのローコスト住宅か…。 で、行き着いたのはやっぱり自然素材、地元の工務店。 手刻みの材木、金物をほとんど使わない躯体、美しい木組み。 間取りの打ち合わせがほぼ終わった頃、棟梁がつぶやいた。 「ホンマは石場建てがエエんやけどなぁ・・・。」 「えっ?石場建てってなんですのん?!」・・・ 家造り、伝統構法について、発信していきます。

「それでもやる? 軒ゼロ住宅」③

kongou2002.hatenablog.com

からの続き・・・

xtech.nikkei.com


【軒ゼロのリスク】
(第1に、・・・)

第2に、
日射に関するリスクです。
軒が無いと、直射日光の制御ができないということです。

日本はヨーロッパと違って緯度が低いので、太陽が高いです。
なので、真夏でも真冬の日本の太陽高度のようなヨーロッパと
同じような設計をしていてはいけないのです。

東南~東アジアの家について、4/15に書きました。
調べると熱帯~亜熱帯ではみな、軒が長いのが分かります。

昨今、寒い日本の家を温かくすることに注目され、
省エネの観点から高気密・高断熱でエアコン暖房が喧伝されていますが、
日本の夏は地球温暖化の影響もあって、近年40℃に迫る勢いです。

「家のつくりやうは夏をむねとすべし」…七百年前の吉田兼好ではないけれど、
省エネの観点からも地球温暖化対策やSDGsの観点からも、
エアコンに少しでも頼らなくて済む視点をもって、
あらためて東南アジアの家のありように注目すべきときではないでしょうか。

そのためには、夏場の直射日光を遮るのが何より重要です。
簾とかゴーヤーとか言われていますが、
軒の影に勝るものはありません。

セキスイハイムの、屋根なしのただの箱型の家と、
軒のある屋根のオプションを付けた家の、
5/1の11時AM頃の同じ角度からの写真を見比べてみましょう。



このときは気象庁によると23.4℃、陽射しがきつく、日向は体感温度30°?暑いぐらいです。
軒のある方の家は、室内への日射が抑制されているのがよく分かります。
軒の無い方の家は、外壁への1年で最大のこの時期の紫外線が全面直射。
エアコン空調だけではなく、家のダメージの問題でもあることが分かります。

さて、ここでちょっと、小学5年(?)の理科を・・・。
私の街の大阪府枚方市の緯度は、34.8143°です。
これはだいたい、北部九州~関東の太平洋ベルトの地域に当てはまります。


夏至の太陽南中高度 = 90度 - 計測点の緯度 + 23.4(地軸度)
90.0-34.8+23.4=78.6°
 
春・秋分の太陽南中高度 = 90度 - 計測点の緯度 ± 0
90.0-34.8±0=55.2°
 
冬至の太陽南中高度 = 90度 - 計測点の緯度 - 23.4(地軸度)
90.0-34.8-23.4=31.8°

日本の家は、伝統的に南側に軒を向けます。(東西妻面)
この計算で、南側の軒をどれぐらい出せば
真夏の日射を南側の外壁に直接当てず、また室内への直射を防げるか、
簡単に絵を描くことができます。

建築家だったら、義務教育の知識でもできる
これくらいのことは、最低限してほしいものです。

建築基準法では、1m以上軒を出すと、建築面積に算入されるので、
ウチでは2階の南側の軒を約90cmにしてあります。
 
夏至(6/21)から2か月弱前の5/1正午の、
ウチの伝統構法石場建ての日射を見てみましょう。

南側の掃出しに、陽射しが少しだけかかっています。
夏至から2か月弱後のお盆頃も、こんな感じになるということ。
ま、いい感じでしょう!
これなら、無垢表し材と土壁の効果も相まって、
エアコンの使用は最小限で済みそうです。

冬は、太陽が30°そこそこなので、部屋の奥まで陽が射しそう・・・
・・・は、無理なんですよね。
ウチの場合、南側の隣家との距離が3m半足らずなので、
隣家が北側斜線で軒を落としてくれていても影になってしまいます。
都市部の一般的な住宅地では、さすがに難しい問題です。

欧米の家は、家の向きに拘りません。
でも日本で南向きの家が指向されるのは、こういう意味なのです。
田園調布の放射同心円状の住宅地が日本で普及しなかったのも、
東西南北の碁盤目状が気候風土に合うという合理性があるからなんですね。


【それでも軒ゼロの家を選ぶ?】

こう見てくると、隣家との余地のない住宅密集地はやむを得ないとしても、
余地のある普通の住宅地なら、軒やケラバはせめて
30~45cm以上は欲しいところですね。

それでも軒ゼロの家が増え続ける要因は、第一義的には、
施主・住まい手の必要性によるものではないということ。
設計側の都合に、施主の嗜好が引き寄せられているということです。

その意味で、住まい手にメリットの無い軒ゼロ住宅を
設計する側の責任は重いというべきでしょう。

ローコストで三十年で産業廃棄物の家を、
生涯かけたローンで買う必要はない。
そんな借家普請なら、借りた方がよほど豊かに暮らせるのではないでしょうか。

それでも売れるから、ビルダーや銀行の儲けになるから、
政府もそれを奨励しているから、
そんなメリット皆無のデザインの家を作り続け売り続ける。

自分の暮らしを家づくりに賭けるのなら、
住まい手・施主が、そんな家を良いとは思わないという
リテラシーを向上させるしかないのです。

結局は、建てるのも買うのも、施主・住まい手。
設計した建築家や施工業者の責任は大きいとはいえ、
やはり選ぶのは自分の責任。

私も最初の家をバブル後期の高金利のときに35年ローンで建てたときは、
そこまで深く考えていませんでした。
でもそこで、古びていく合板やビニルクロスに囲まれて二十年暮らして、
遅まきながらようやくこの歳になって気付きました。

独善的な建築家やサラリーマン建築士
売れさえすればいい営業マンに任せていないで、
一生を賭ける自分の家は自分の力を磨くことから!

二十年前と違って、インターネットや書籍や、
情報がいくらでも手軽に手に入る現代。
その数多の情報から、正しい必要な情報を選び取ることができる現代。
これから家を建てようという若い人たちが羨ましいです。

<参照>


(他にも軒の大切さを解説しているサイトはたくさんあります。)