大阪で伝統構法の家づくり!・・・石場建て/木組み/土壁 ~今さらマイホーム新築

五十代も後半、自宅を再建新築。 今さら住宅ローン!建売りのローコスト住宅か…。 で、行き着いたのはやっぱり自然素材、地元の工務店。 手刻みの材木、金物をほとんど使わない躯体、美しい木組み。 間取りの打ち合わせがほぼ終わった頃、棟梁がつぶやいた。 「ホンマは石場建てがエエんやけどなぁ・・・。」 「えっ?石場建てってなんですのん?!」・・・ 家造り、伝統構法について、発信していきます。

石場建て伝統構法についての誤解・曲解・浅解・・・木構造の専門家でも?!

「石場建て」「伝統構法」
一般の人には、馴染みのない言葉だと思います。私も実は知りませんでした。
ところが調べ始めたら、学びきれないほどのたくさんの情報があって、驚かされました。


先日いつものように何気なく家づくり関係のYouTube番組を見ていました。
すると、あるチャンネルの対談番組で、
構造についての間違ったいい加減な嘘情報に気を付けようという論旨の中で、
こともあろうに伝統構法や石場建てについて根本的に???!と思われる言及があったのです。
しかも、伝統構法を論じる文脈ではなかったなかで唐突に・・・。
 
曰く、本当の伝統構法系の人なんて、実際のところいない・・・。
曰く、石場建ての良さを本気で一生懸命言っている人がいて、それも危険だなぁと・・・。
曰く、建物を固めない構造で地震力をいなすなら、足元は地面に緊結しないといけない・・・。
曰く、逆に石場建てにするなら、建物はカッチカチに固めないといけない・・・。
曰く、伝統構法や石場建ては、住宅向きではない・・・。

目が点になるというのは、まさにこのこと!
構造計算や構造設計の最新情報や技術研修を会員制で開催している著名な建築士さん。
「影響力がなければいいけど、あっていい加減なことを言われるのはマズい」という文脈の中で、
わざわざ伝統構法に言及して、まさかの誤解や偏見を招くようないい加減な論説!

私は素人、一介の建て主なので、石場建て伝統構法についての研究者でもなく、
だからこそいい加減なことを言わないように根拠のないことは述べないよう、
そこだけは留意してきました(及ばずの点は多々あろうかと思いますが。)

なので、私がこれまで述べてきたことと相容れないことを、
あんなに安直にサラっと言われてしまうと、それこそ逆に
「影響力がなければいいけど、あっていい加減なことを言われるのはマズい」と
言い返さざるを得ません。
あの動画だけ見れば一般の視聴者は真に受けてしまい、それこそ危険です。

私がこのブログで述べているあれこれは、
いろんな勉強会に参加してきて得られた情報を元に、
できるだけ書籍やWEBで裏付けをとるようにしています。
それらイベント参加については、以下の稿にも載せています。
 
2020/2/23​稿
​2020/2/23​稿
​​
2019/8/10稿
それらを通じて私が直接ご縁をいただいた頼りにしている先生方に
当のYouTube動画について伺ってみたところ、私と同様の思いを寄せてくださいました。
全体管理責任者をなさっていた​大江忍​先生は、以下(抄)のようにおっしゃいました。

> 一般論で論じきれるほど伝統構法は簡単なものではありません
> 柔構造でも、剛構造でもありません
> 石場建ての伝統構法を論じるには認識の違いがあったと感じました
> 100名以上の実務者と構造研究者が国交省と協力して多くの実大実験や要素実験を繰り返し
阪神大震災よりいろいろな大地震が起こるたびに現地調査をし
> 多くの方々のボランティア活動も含めて設計法やデータベースを作成しました
> 一時は建築基準法の改正で造ることが困難となってしまった伝統的構法が
> 法律的にも問題なく限界耐力計算によりダブルチェックを受けて確認申請を通し
> 全国で基礎から計算法を学び研究や実験にも参加しながら努力している設計者も数多く
> また古民家再生における耐震のチェックにも応用できております
​​​


冒頭の「曰く・・・」に対して私なりに言えば・・・
・本当の伝統構法系の人は実はたくさんいらっしゃって、
 十数年前から多くの人の努力によって国を巻き込んで復権が図られてきました。
・石場建ての良さを本気で一生懸命言っている人は、
 研究や実験の結果という明確な根拠に基づいて、まさに本気で一生懸命言っています。
・石場建て伝統構法の強さは、建物を地面と緊結せず、木構造の粘りを特長としています。
・石場建て伝統構法の住宅建築は構造計算(限界耐力計算)の構造計算適合性判定(適判)を
 経て建築確認され、優れた施工例が数多く存在します。
​​​​
・・・こういったことを広く知ってほしいというのが、まさにこのブログの趣旨です。

当のYouTube動画の論説は、
実は伝統構法を騙る似非(エセ)に注意!という趣旨だったとのことですが、
たとえそれが論旨でも、誤解を招く論説は偏見を生みかねません。

大手ハウスメーカーなどの資本力も影響力もあるメジャーを
批判的に論評するのはどうってことはないと思います。
しかし、絶滅危惧種だった伝統構法が、復権に向けて何年もかけて
科学的知見による裏付けを重ねて国も認るところまで辿り着いたのは、
資本力もない影響力も乏しい数多くの人たちのたゆまぬ努力の結晶です。
安直な論評はその真摯な取り組みに水を差すことになってしまいます。

木構造に造詣の深い建築士であればなおのこと、そのせっかくの知見を、
ぜひ伝統構法の発展に寄与する方向で生かしてほしいと思います。
現代のナントカ工法が絶版になり忘れ去られた百年後の未来にも、
存続し続け発展し続けるのが伝統構法というものなのですから。


この動画は、一般の人が家づくりのリテラシーを高められるようにと、
根拠を示しながら理詰めで論説する私のお気に入りのシリーズでした。
だからこそ、嘘情報に気を付けようとの番組でした。
そして、その中での安直でいい加減なエセ情報!

ボーっと生きてたら、チコちゃんに叱られますね。

ま、お陰で、伝統構法の復権発展にどんな障害があるか、示唆的ではありました。
あんな木構造の専門家でも、伝統構法をあんなふうに捉えている・・・。
 
よく言われる「伝統構造は柔構造・・・」「伝統構造は免震構造・・・」
超高層ビルの柔構造や、免震装置による免震構造と混同されているようです。


伝統構法は確かに金物でカッチカチに固める剛構造ではありませんが、
柳のようにフニャフニャ揺れるというのではなく、木組みの粘りが特長です。
建築用語で言う「極めて稀に発生する地震※」でも
構造体が破断することなく変形復元特性により倒壊せず耐えられる構造設計・・・
建物が受ける地震力を弱め、または吸収しうるような柔構造という意味ではありません。
(※ 500年に一度発生する地震・・・目安として概ね震度6強~7)

また石場建てだからと言って地震で必ずしも滑るわけではなく、
「極めて稀に発生する地震」でなければ建物の自重により動くことはまずありません。
免震装置は地震の揺れを吸収するというものなので、
石場建ては免震的な働きはあっても、免震構造ではありません。


確かに石場建て・伝統構法を語るときに、
これら柔構造や免震構造といった用語が不用意に使われることは多いようです。
(私もこのブログで過去に使っているかもしれません。)
素人には分かりやすいからです。


日本の伝統建築の構法 柔軟性と寿命 [ 内田祥哉 ]

私も素人の一人なんで、きちんと正確に説明するのは難しいのですが、
誤解を招くような言葉には注意しないといけませんね。
自戒も込めて、この稿としました。


聞き書き 伝統建築の家 造る 住む 直す 職人の技 [ 原田紀子 ]




註:​​私の指摘に対して、当のご本人は発言の本来の趣旨を以下のように言っておられます。

 > 本来の伝統構法の流れと逆行するように、安易に柔構造だの、地震力をいなすだの、免震工法だのと
 > 雰囲気で伝統構法を語り、105角の材料で金物不要、筋かい不要として
 > 伝統構法にも当然、耐震構造にもならない木造住宅を手掛けている方が多い現状があります
 > そのような方への意見として発信をした次第です
 >(本来の石場建て・伝統構法を否定しているものではなく)

​ 私はこの方を批判しているのではありません。​​​​​不用意な発言は誤解を招き偏見を広めかねないと言っているのです。
 敢えて元動画はここでは挙げません。知りたい方はご連絡ください。