大阪で伝統構法の家づくり!・・・石場建て/木組み/土壁 ~今さらマイホーム新築

五十代も後半、自宅を再建新築。 今さら住宅ローン!建売りのローコスト住宅か…。 で、行き着いたのはやっぱり自然素材、地元の工務店。 手刻みの材木、金物をほとんど使わない躯体、美しい木組み。 間取りの打ち合わせがほぼ終わった頃、棟梁がつぶやいた。 「ホンマは石場建てがエエんやけどなぁ・・・。」 「えっ?石場建てってなんですのん?!」・・・ 家造り、伝統構法について、発信していきます。

工法を選ぶ ・・・ 木造軸組工法 ~ 在来工法:伝統構法

日本で家を建てるなら、数ある工法のうち、木造軸組工法をお勧めしたいと、
そして木造軸組工法には、在来工法と伝統構法があり、
現行の建築基準法では伝統構法は規定外なので、一般的には在来工法を選ぶことになり、
それは品質がピンキリなので、設計施工業者をよく選ばないといけないと。

じゃあ、どんな基準で業者を選ぶか・・・?
それは別項にゆずるとして、
本稿では在来工法と伝統構法の違いを具体的に。

在来工法は伝統構法から派生した意外と新しい工法だと前稿で述べましたが、
これには建築基準法が絡んできます。
大災害があるたびに見直されていきます。

そして戦災後の改訂が在来工法を生みます。
それまでの伝統構法=木組みは、継手や仕口などの大工手間と、
柱材や梁材などのふんだんな材料が必要になります。
焦土と化した国土(特に都市部)では、復興にそんな悠長なことを言ってられません。
そこで建築基準法を改訂して簡易な家を作れるよう奨励したのが、
在来工法というわけなんです。

日本の古来の建て方は、柱や梁や貫など垂直と水平の軸組み架構で、
斜めに材をいれるという考え方はしていませんでした。
どうも、筋交いを知らなかったわけではなく、知っていても採用しなかったようです。
当時の技術ではかえって地震に弱いということが分かっていたからではないかと思われます。

ところが、進駐軍にはこれが理解できない。
欧米では、壁面で架構するというのが根本思想だったからです。
そこで西洋の考え方を日本の軸組み架構に採り入れ、
​柱間に斜め材=筋交いを渡して壁面とすることにしたわけです。


​(​木の家ネット​より引用)​

そして複雑な手刻みの継手や仕口の代わりに、金物で補強するようにしました。
こうして、細い材木で手間をかけずに短期間で住宅が建てられるようになったわけです。

そうした復興住宅に端を発し高度経済成長期に濫造された在来工法の家は、
阪神淡路大震災以降の度重なる大災害を経て、多大な犠牲を伴って淘汰されていきます。
以来、建築基準法のさらなる改訂もあり、在来工法も飛躍的に進化しています。

在来工法で耐震等級3の高気密高断熱住宅が設計できるようになった今、
宅建築においてはようやく戦後復興期を脱しつつあるということができると思います。

さて、「​(一般社団法人)木の家ネット​」のHPを見ると、
「木組みの家」という表現がよく出てきます。
この「木組み」とは、どんなことを指すのでしょうか?

これは伝統構法に限らず在来工法も含めて木造軸組工法において、
手刻みの継手・仕口を極力金物に頼らず組む架構のことだと理解しています。

何度も言うように石場建て伝統構法は、建築基準法上の規定がありません。
なので、それをしようと思うとものすごくハードルが高いことは、
1/8「​​限界耐力計算…石場建て伝統構法の構造計算​​」をはじめ繰り返し述べてきました。

そこで木組みの家をあらためて一般の手の届くところにするべく、
建築基準法上最低ラインの金物だけにして極力金物に頼らず、
在来工法で木組みの家を設計し建てようと技術が磨かれてきています。

その一つが、私が設計建築を依頼した​日伸建設​であり、
他にも全国にあります。(木の家ネット​つくり手リスト​も参照)

とはいえ、そのようなつくり手は、探せば他にもまだまだいらっしゃるのに、
それでも多くの在来工法は相変わらずといったところでもあります。
これだけ不景気が続き(政権も有効な手立てを全く打てず)
ローコストを求めるしかないなかでは、やむを得ないのかもしれません。

ここで本題。
ごく一般的な在来工法の建築現場と石場建て伝統構法の建築現場を、
写真で比較してみましょう。

まず、ごく一般的な在来工法の足元です。
コンクリート基礎の上に土台の材木を乗せてホールダウン金物で緊結し、
そこに柱を立てます。
ここの場合、合成ピレスロイド系かネオニコチノイド系などかの防蟻剤を加圧注入した
人工乾燥無垢檜4寸角の土台に、
耐腐朽性・防蟻性の弱いホワイトウッドの集成材の柱が使われています。

これら土台や柱は石膏ボードや合板などで覆われて大壁となるので、
約5年で防蟻剤の効力がなくなっても、柱が壁内結露で腐朽しても、
気付くことはありません。

こちらは同じ角度からの伝統工法の足元です。
柱が礎石の上に立っており、全ての柱が足固めという横架材で繋がれています。
足元には柿渋とベンガラを原料とした自然素材の防蟻剤が塗られていますが、
床下は風が通り抜け乾燥しているので白蟻のリスクはかなり低いのです。
また壁は真壁で柱が常に空気に触れており、仮に何らかの被害があってもすぐ見えます。
壁は中空ではなく壁土で詰まっているので、壁内結露なんてことにはならないのです。

次に在来工法の床面捨て張り(下地板)です。
合板のフローリングにするにせよ無垢材フローリングにするにせよ、
(在来工法に限らず近年はほとんど)合板を使います。
ここでは、ネダノンという合板が使われています。
これは2003年以降採用が増えた普通の構造用合板の2倍厚(24~28mm)の床用構造材で、
床下の根太や火打材が不要で工期が早いというものです。

対して伝統構法の床は、ここの場合は礎石に立てた束に支えられた12cm幅の大引きに、
4cm厚の杉の無垢板が本実張りで敷き詰められています。

同じ木でも、合板には調湿性能はほとんどないうえ熱伝導率も無垢材より高く、
無垢材は居住性能上有利です。

また合板は水に弱く、濡れているとこうなるのは見たことがあると思います。

日本では結露や雨によるリスクが、耐久性という面からも無垢板より高いのです。

天井は、在来工法の場合は、普通はこのように集成材の梁を使います。
梁同士は、金物で継いであるのが見られます。
金物で継ぐと完全に固定されるので、一定以上の地震動がかかると
木の方が断裂することがあります。
また、火災のときは金物は熱伝導率が超高いので、ヒートブリッジ(熱橋)となって、
材木を中から焼き、炎を向こう側に伝えることになるリスクがあります。

伝統構法の場合は、無垢材を使います。場合によっては、丸太も使います。
無垢材は方向性があるので、適材適所を見抜く匠の技が必要です。
丸太は、曲がりをアーチとして利用します。
木同士を継手や仕口で組むので、地震動に対してはしなることで力を逃がしながら耐えます。
そのぶん、在来工法に比してかなり太い材木が必要です。

壁は、もちろん在来工法は、筋交いで壁面を構成します。
筋交いは、以前は鎹(カスガイ)で、今は特殊な金属プレートで留めます。
これも巨大地震で木ネジのところから木が破断するという報告があります。
構造計算しなくても壁量だけで建築確認は通りますが、
それでも設計次第で耐震等級3は出せるんだから、必ず構造計算するべきだと思います。

伝統構法の場合、そもそも壁量計算という考え方は馴染まないそうですが、
この貫と土壁で2003年から壁倍率1.5(※脚註)まで見ることができるようになっています。
つまり、在来工法でも使うことができるようになったわけです。
貫を柱に楔(クサビ)で固定するとか、竹小舞や壁土はとか、規定があります。


とはいえ伝統構法では、地震力に対して壁で踏ん張るというよりは、
しなって力を受け流すという考え方なので、
そもそも基礎に緊結していないことも相まって、
在来工法の許容応力度計算による耐震等級の算出は馴染みません。

伝統構法は限界耐力計算が必須なので耐震性は十分のはずですし、
実大実験や実際の被災現場で耐震等級2~3は実証されているようです。
とはいえ詳細は私も説明できないので、さらに勉強しているところです。

何か結局は在来工法をクサしているように受け止められそうですが、
決してそういう意味ではなく、日本では木造軸組工法が良いということ、
在来工法と伝統構法の違いと特性を整理しておきたかったこと、
そして今は在来工法が現実的だけど、
伝統構法が家づくりの選択肢に入ってくるようにしていきたいということ、
在来工法でも何でも、全棟構造計算を必須とすべきだということが、この稿の趣旨です。

在来工法と伝統構法、ちょっと思い付きで例えてみるなら、こんな感じかな・・・。

過去の地球では、爬虫類である恐竜が大繁栄して頂点を極めていました。
​そのままいけば、恐竜の中から人間みたいなのが進化し、文明を築いたかもという説もあります。

​(​ディノサウロイド:Wikipedia​)​
けれど六千数百万年ほど前、小惑星の衝突か何かの大インパクトで、恐竜は絶滅した。
以降、系統の違う哺乳類が大繁栄して頂点を極め、現生人類の文明が誕生しました。

これに例えると、恐竜人類が伝統構法。現生人類が在来工法。
2×4や鉄骨プレハブは、太陽系外からの宇宙人!

恐竜も恒温動物に進化していたことは既に明らかになっているし、
絶滅の原因となった超巨大災害さえなければ、
現生人類に比肩する文明を持ったかもしれません。
であれば、両者は脊椎動物というルーツは同じ、異なった系統だけど優劣はない。

伝統構法も、第二次世界大戦で国土が焦土化さえしていなければ在来工法は出現せず、
日本では主流のまま現代科学にとってさらに進化発展していたかもしれません。
先の大戦では、その大人災と宇宙人の遭遇が同時に起こった!

​(Star Trek ヴァルカン星人とのファーストコンタクト)​
そのなかで生き延び発展進化し続けている木造軸組工法が、在来工法。

でも恐竜と違って、伝統構法は、完全には絶滅しませんでした。
お陰で戦後数十年してようやく価値が再認識され、今、科学の目が向けられています。

というわけで、
竜人類も現生人類もルーツは肺呼吸脊椎動物
伝統構法も在来工法も木造軸組工法。

・・・ワケの分からない例えになってしまいましたが、
日本で建てるなら国産材の木造軸組工法で。
伝統構法は在来工法に比べて工期も長いし費用もかかるので、
現実的には在来工法だけど、伝統構法にも光を!という話し。

最後にひとつ、私が木組みの家にする決め手の一つとなった、
松井郁夫建築設計事務所​の​HP​をご紹介しておきます。

そして、石場建ててはありませんが、その在来工法木組みの家の
施主のお一人の連載記事もたいへん興味深いので、ぜひご一読をお勧めします。
 
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建築基準法施行令第46条 告示1100号
◇貫は、厚さ1.5cm以上幅10cm以上のものを91cm以下の間隔で3本以上設け、
 柱との仕口は楔で固定する。
◇間渡し竹は、幅2cm以上の割竹または経1.2cm以上の丸竹とし、
 柱および梁・桁・土台などの横架材に差し込み、貫にSFN25同等以上の釘で打ち付ける。
◇小舞竹は、幅2cm以上の割竹を4.5cm以下の間隔で配置し、
 棕櫚縄または藁縄・パーム縄などで間渡し竹に締め付ける。
◇荒壁土は、100ℓの砂質粘土に対して、0.4kg以上0.6kg以下の藁スサを混合したもの。
◇中塗土は、100ℓの砂質粘土に対して、60ℓ以上150ℓ以下の砂
 および0.4kg以上0.6kg以下のもみスサを混合したもの。
◆上のものを、以下の塗厚で施工する。
 中塗土を両面に塗り、土塗り壁の壁厚7.0cm以上 → 1.5倍
 中塗土を両面に塗り、土塗り壁の壁厚5.5cm以上 → 1.0倍
 中塗土を片面に塗り、土塗り壁の壁厚5.5cm以上 → 1.0倍​